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恵文社 一乗寺店

【後編】「恵文社一乗寺店」 若き書店マネージャー 鎌田裕樹さんが目指す恵文社の新しいカタチ

恵文社一乗寺店の書籍マネージャーを務める鎌田裕樹さんにインタビューをさせていただきました。
前編では恵文社一乗寺店創業時のお話や、本を並べる工夫についてお話を伺いました。

≫【前編】「恵文社一乗寺店」 若き書店マネージャー   鎌田裕樹さんが目指す恵文社の新しいカタチ

後編はギャラリーや仕事について、そして今後の恵文社について熱いお話を伺っています。
それでは後編どうぞ!!

なにやったって仕事の糧になる

──恵文社一乗寺店さんには素敵なギャラリーもいくつか併設されていますね。
ギャラリーはどれくらいの頻度で利用されていますか?

恵文社一乗寺店の見取り図

恵文社 アンフェールアンフェール
恵文社 生活館生活館


鎌田:
となりのアンフェールってギャラリーは週一で展示が変わります。
それを借りてもらったり、うちで企画したりしています。週一で展示が変わるので、滞留が一番いいのはアンフェールやと思います。

あとは生活館の小さいギャラリー、展示スペース、このふたつは2週間に一度展示が変わります。
他には店内のミニギャラリーとかがあります。
ちなみに、本は毎日入荷してきますんで、意外と入れ替わりの激しい店なのかなっていう気がしますね。

── 広いイベントスペース(コテージ)で今インタビューをさせていただいています。
こちらのイベントスペースはどのようなかたが使われることが多いでしょうか?

恵文社 コテージコテージ

 

恵文社 イベントスペース キッチンコテージの中にはキッチンがある


鎌田:
キッチンがあるので、カフェをされるかたもいますし、毎週月曜日はうちのスタッフがカフェやります。
キッチンのあるイベントスペース(コテージ)って意外と他にはないんじゃないかなと思います(笑)。
また料理系の本が出たらイベントとかやってもらうこともあります。
今後はもっとそういうのが増えたらいいなと思います。

あとは椅子がたくさんあるのと、マイクとスピーカーもあってプロジェクターの貸し出しもしていて、トークショーもできます。
この前は最大で70人入るイベントが行われました。
物販することもありますし、音楽ライブもありますね。
ただ住宅地でアンプをつなげないので、マイクを使わない生歌のライブが行われています。

──70人ってすごいですね。

鎌田:先週は落語家に借りていただき高座が行われましたし、1月は造形大の学生が写真展で2日借りてくれました。
借りてくださる人のやりたいことが何でもできます。
アンフェールの敷居が高いって人はここ(コテージ)とかも日貸ししていて、平日だったらまる1日借りてもらっても1万円くらいです。

──ギャラリースペース、イベントスペース(コテージ)では具体的にどういったことを行おうと考えていらっしゃいますか?

恵文社 イベントスペース広いイベントスペース・いすも多く並ぶ


鎌田:
僕が2017年の目標としてかかげているのは子ども向けのワークショップを定例化したいっていうことです。
僕は子どもが好きなんです。
恵文社って子どもが来るようなイメージがあまりないじゃないですか。
そのイメージを変えるために子ども向けのワークショップをやりたいんですけど、ノウハウが無いので今勉強中です。

知り合いの人とかがやってるワークショップとかに手伝いに行って勉強したいなって思ってます。
なにやったって仕事の糧になるっていうのが本屋の強みですね。
漫画読もうが勉強ですから(笑)。
映画見ようがね。

だからそういう無駄が無いっていうのが僕がこの仕事を選んだ大きな理由ですね。
なにやったって仕事につながっちゃう。
逆にそれがツラいときもあるんやけど(笑)。

──どういったときにツラいと思われますか?

鎌田:僕が広報担当してるっていうのもありますけど、やっぱ若いとツテが無いので、ツテを作る作業っていうのがすごい重要なんですよ。
休みの日に出版社の人と飲みに行ったりも普通にありますし(笑)。

もともとここにはカリスマ書店員がいてその人が少し前に独立したので、そっちに流れる営業のかたもいっぱいいるんです。
恵文社に本は置いてもらうけど、イベントは向こうでやるとか。
でもそれが悪いとかじゃなくてその人の蓄積の結果なんです。

じゃあ、15歳上くらいの人と自分が張り合うにはどうしたらいいかっていうと、地道にやっていくしかない。
僕が顔出したり話したり本を読んだりっていうのは、店にもすごく影響するので。
休みの日に何かに追われるかのように映画を見に行くとかね。

──なるほど(笑)。

鎌田:あとは店のBGMは僕ともう1人のスタッフが買ってきた曲をかけています。
恵文社に来てからたくさんCDを買うようになりましたし、とても勉強になりました。
お金使うといいですね、人間。
お金を使った物だとしっかり覚えるし。
漫画もそうじゃないですか。
やっぱ買わな読まへんし。

ツラいし楽しいし、やらなきゃいけないことでもある。
自分自身が勉強していかなきゃいけないですね。
「ここまでやったし今日はもういいやあ。」ということがなかなかない。
好きなことだから言い訳がきかないっていうのは、良い意味でも悪い意味でもすごく痛感してますね。

恵文社の方向性を示すことが出来た

恵文社 鎌田裕樹さん

──恵文社一乗寺店さんはWebページやTwitterなどで情報発信もされていますね。
こうしたメディア展開が実施されるようになったのはいつごろからでしょうか?

鎌田:外に向けた情報発信を始めたのも雑貨の展開を始めたのと同時期だと聞いています。
それまでは結構みんな好きなものを置いたりとか、混沌としてたらしいんですけど(笑)。

ある日ひとりのスタッフがオンラインショップを作ろうぜって言ったらしいです。
そこからWebページもできて、恵文社のパブリックイメージ、こういうのを推してるんですっていうのができ上がっていったっていうのを以前勤めていた書店員のかたが言っていました。

まだそんなにWebページとかが盛んじゃなかったころにオンラインショップができたっていうのがすごい強いみたいで。
その辺りから恵文社が有名になりだしたっていうのもあるらしいです。

Webページの他にはTwitterですね。
今ではどこの書店もTwitterやインスタグラムをやっているので、もう今はTwitterをやる必然性を感じます。
やらないと置いていかれる一方ですし。

──メディア展開をしたことによる効果はありますか?

鎌田:アウトプットしたことで店のパブリックイメージが固まったっていうのはどのスタッフも言っていました。
ものが売れるというよりかは、恵文社がこういう方向性だというのをはっきりと公言できたことが一番効果としてあったと思います。
ブログやTwitterといったメディアを使うことで今は、毎日こういうものが入荷しましたよっていうのが言えるので。

他の書店さんではもっとマメに新刊で入ったものを薦めることもあって、それはとてもすごいことだなとは思うんです。
でも、うちではオススメする本を選んで紹介しようっていう話をスタッフとしていますね。

──書店に入荷した本を全て紹介するというよりは、しっかり選んだものを紹介するということでしょうか?

鎌田:そうですね。
恵文社の伝統的に良いところは、本の紹介文が長いところでして、1冊に300字くらい書いているんです。
それだけちゃんと読んで薦めているんだっていうのをもう少しアピール出来ればいいですね。

それも必要なのかっていうのは僕も1、2年後にならないと分からないことなんですが、やっぱり支離滅裂になるとそれもよくないので。
本当にセンスいいよねって言われるように、紹介文ひとつにしても若いなりに考えてやっています。

ブログとイベントスペース(コテージ)の利用率をもっと効率的にっていうのが僕が今かかげていることですね。
人と話すとまとまってきますね(笑)。

やったことないこと、知らないことにも踏み込んでみる

恵文社 一乗寺店

──今後の展望はありますか?

鎌田:往年の名プレーヤーというか、独立したり新しく本屋を立ち上げたりしてる人って40代のかたが多いんですよ、この業界って。

その中で、僕なんか圧倒的に若いんで、知識量じゃ絶対的に負けちゃうから、そこを追いつこうって努力はもちろんのこと、今までの恵文社に無かったものとか他の独立系の本屋さんでやってないようなことっていうのを、僕らしいところで見つけていけたらいいなと思ってます。

まだ若いしね、無理したって死ぬもんじゃないから。
やらなあかんと思ってます、恥かいたって。

──恥かいてでもやるほうがいいと。

鎌田:そう、恥かいたっていいっていうのが強みでしょう。

日常に流されていくと頭でっかちになっちゃうから。
だから思い立ったらやったほうがいいと思います。

無理して踏み込んだことって絶対糧になってるんですよ今。
家で考え込むのが一番無駄やと思う。
とりあえずやってみるとか本読んでみるとかっていうのが大切だと思います。

ブログとかイベントとか具体的な施策として考えてることではあるんですけど。
子ども向けのワークショップしかり、僕が夜だけバーやるとか、思いついたことを実際にいかせるようにっていうのが2017年の目標ですね。
今までにやったことないようなことをやってみたいなという気はしています。

今いろんなセレクト系の本屋さんが増えているので、その中で恵文社が唯一無二の存在やなって思ってもらえるようにしたいです。
そこにいきつくには僕とかスタッフの努力次第やと思います。

──本を読まない人に何か伝えたいことがあればお聞かせ下さい。

恵文社 鎌田裕樹さん

鎌田:僕らと同じ世代の本を読まない人、特に大学生とか。
仮にも文化的な立場とされる人に向けて言いたいのは、自分が知らないことを知ることはすごい大事なんですよっていうことです。

僕は本をめっちゃ買うんですけど。
1年後に自分の本棚見て、いらないなって本が結構あるんですよ。
でもその中でこれは取っておきたいっていう本も結構あって全然片付かない。
それ思えるのってやっぱり本を買っていたからだし、成長してるっていうのがすごい分かるんですよ。

──なるほど。

鎌田:ご飯とかもそう。
最近酒かすを初めて買ってみて、買ったはいいけど、どうしたらいいんやって調べて。
酒かすのかす汁とか昨日作ったんやけどめっちゃ美味しくて。
毎年冬になったらこれ楽しみにできるなとか、どんどん広がってくじゃないですか。
それと同じ感覚で。
好きなコミック作家がいたらそこから広がってくこともあるやろし。
とりあえず踏み込んでみたらどうでしょうか。

自分が予期していないものに出合う機会を増やすっていうのはすごい大事やと思うんです。
そういう意味で恵文社一乗寺店を使ってもらったらいいんじゃないかなって思います。
探してる本を探しに行く場じゃなくて、知らないものがもしかしたらあるかもしれないっていうスタンスで本とか文化っていうものに触れていくとかなり幅が広がるんじゃないかと思います。

自分に今何があるかを見つめ直すと、色々見えてくる

──実は、鎌田さんには事前に私のプロフィールをお送りしており、オススメの本を一冊選んでほしいと無理なお願いをしていました。
本をご紹介いただけますか。

<インタビュアー マル のプロフィール>
・大学2回生
・漫画が好き
・本が好きだが、文学に詳しくはない。
・幸せとは?働くとは?といったことに興味がある。

恵文社 鎌田裕樹さん 『座禅は心の安楽死』

鎌田:横尾忠則著『座禅は心の安楽死』(平凡社)、これを薦めようと思いまして。
特に漫画描いてるんやったら横尾忠則はいいんじゃないかなって。

横尾忠則って芸術家で、絵とか前衛的なものを描く人なんですが、実は漫画も描いていて。
赤塚さんとかが連載してたときにマガジンとかに応募してたりするんですよ。
この本は横尾忠則が座禅の修行に行った体験記なんです。
この表紙もアンディ・ウォーホルの牛やし、結構かっこよくて好きなんです。

僕も座禅の修行に行ったことが実は1ヶ月だけあって。

──えっ、すごいですね。

鎌田:そのときに言われたのが「足る」を知れってことだったんです。
足りてることを知りなさいっていうのを言われて。

今何でもできるのに実はやってないっていうのをすごい気づく毎日で。
足りてることがわかると自分に足りないものが逆に見えてくる。
逆に欲しているばかりだと得られないものもある。
自分に今何があるっていうのを一回見つめ直してみると色々見えてくることもあると思います。

味噌汁一つとっても、いい出汁使ってみようとか思って最近やってるんですけど、全然味が違うし。
些細なことなんやけど、実は満たされてるっていうことに気づけるんじゃないかなって思います。

──装丁がとてもかっこいいですね。
読むのが楽しみです。

また本日は予定していたインタビュー時間を大きく越えてお話をうかがわせていただきました。
ありがとうございました!

恵文社 鎌田裕樹さん

 

鎌田:ありがとうございました。

編集後記

『座禅は心の安楽死』 横尾忠則 アンディ・ウォーホル

若い書店員の鎌田裕樹さんが書籍のマネージャーを務めておられました。
インタビューではとても気さくに答えていただき、取材の仕事が初めてだった私にはとてもありがたく、心が軽くなりました。
本当に嬉しかったです(泣)。
ありがとうございました。

鎌田さんの言葉からは、恵文社一乗寺店の伝統を受け継ぎつつも新しい取り組みを積極的に行っていこうとするチャレンジ精神が感じられました。
またインタビューでは終始、鎌田さんの温和な言葉遣いの内に秘められた、恵文社をより良くしていこうとする熱い情熱や、恵文社を背負って立つ強い責任感が感じられました。

このたびはインタビューをお受けいただきありがとうございました。

オススメいただいた本も面白く読ませていただきました。
座禅の体験談が詳細に伝えられ、横尾氏の宗教観がうかがい知れました。
座禅を通して現実を見つめ直す姿勢が印象的でした。

 

≫前編の記事はコチラ

≫恵文社一乗寺店のホームページはコチラ

★恵文社一乗寺店
場所:〒606-8184 京都府京都市左京区一乗寺払殿町10
営業時間:10:00~21:00

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writerWRITERこの記事の作者
kawashima

この記事を書いたひと マル

京都の大学に通う学生ライター。 丸顔なので「マル」というペンネームに。 学生ライター仲間を募集しています!
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