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「尾崎さんのアイデアを詰め込んだ作品です。」 クリープハイプ『イト』MV監督・山口淳太さん(ヨーロッパ企画)

このミュージックビデオ(以下、MV)をご存知でしょうか。
映画『帝一の國』の主題歌で、ロックバンド、クリープハイプの新曲『イト』のMVです。

このMVでは、クリープハイプメンバーの紙人形をメンバー自身が操っています。
ブラックユーモアたっぷりに描かれ、紙人形のキュートな動きと、クリープハイプメンバーのカッコイイ演奏シーンが印象的な作品です。
面白さとカッコよさが両立した素晴らしいMVだと感じます。

このMVの監督はだれなのか調べてみると、「京都を拠点に活動している劇団の“ヨーロッパ企画”」という記載を発見しました。
これはどうしてもお話を伺ってみたい!と思いヨーロッパ企画さんに取材をお願いしてみると、快諾してくださいました。
今回はヨーロッパ企画さんの事務所に伺い、MV『イト』を監督された山口淳太さんにMV製作の舞台裏を伺いました。

 

──本日は取材をお受けいただき、ありがとうございます。
よろしくお願いいたします。

山口:
よろしくお願いします。


★山口淳太(やまぐち・じゅんた)さん
1987年生まれ。大阪府出身。
2005年ヨーロッパ企画に映像スタッフとして参加。ヨーロッパ企画の映像全般に携わる。
また、自主映画の監督も手がけ、地方銀行員の映画監督デビューに迫ったドキュメンタリー『現役OL銀行員、映画監督をやってみた。』がさぬき映画祭で2年連続で上映された。

「糸」で操られる紙人形を使ったMVに

──MVの制作経緯をお聞かせください。

山口:まず最初に歌詞を読ませていただきました。
歌詞には「糸」と「意図」がかかっているなど、さまざまなダブルミーニングがあり、どんな映像がこの歌詞の世界に合うのか考えていく中、「糸」で操られるマリオネット人形を使うのはどうかなと思いました。
考えを企画書にまとめてお送りしたところ、クリープハイプの尾崎世界観さんと打ち合わせをすることになりました。

「マリオネット」をどういった手法で表現するのが面白くなりそうか、尾崎さんといろいろ話し合ったのですが、決め手となるものがありませんでした。
そこで、僕が携わったこれまでの作品をお見せしたところ、尾崎さんの目に留まったのが『タクシードライバー祗園太郎』でした。

『タクシードライバー祗園太郎』は、NHK Eテレで放送していた紙人形の番組で、ヨーロッパ企画で役者の永野宗典が監督、僕は撮影・編集を担当していました。
尾崎さんに祗園太郎をお見せしたところ、この感じでいきましょうか!と、紙人形を使った内容で即決。
そこからは内容もすごく順調に決まっていきました。

話す中で、尾崎さんが「ライブのときなど、ファンの方々と自分たちの間で、お互い気を遣っているような感じがある」とおっしゃられたのがすごく印象に残りまして。
これをMVに入れ込みたいと思いました。
そこで、ファンの方々とメンバーみなさんを紙人形にして、糸で操られている感じに。
その他の登場人物は人間で表現することになりました。

尾崎さんのアイデアがたくさん詰まった作品

──MVのストーリーについてはどのように決まっていったのですか?

山口:ストーリーについても、このときの尾崎さんとの打ち合わせで決まりました。
尾崎さんからのアイデアがどれも本当に面白くて、全部入れ込みたいと思いました。
完成したMVには、ほぼすべて入っています。

──尾崎さんの案というのはどういった部分ですか?

山口:たくさんありますが、ひとつは、ワイプの案です。
紙人形を操っている自分たちの様子をワイプでずっと抜かれているのはどうかという案をいただきました。
最高に面白いと思いました。

後半、週刊誌の紙面のカットでも、「夏のせいなのか」の文言は尾崎さんのアイデアです。
クリープハイプの『ラブホテル』という曲の歌詞とかかっているのですが、尾崎さん御本人からこういうご意見をいただけるのってすごく贅沢といいますか、うれしい反面、これは絶対いいMVにしないと申し訳ないぞ!と覚悟した瞬間でした。

人間と紙人形を同じ画で撮影する手法に挑戦

──紙人形についてもお聞かせください。

山口:紙人形のデザインはヨーロッパ企画の角田貴志に描いてもらいました。
『タクシードライバー祗園太郎』の紙人形のデザインも角田さんが担当しています。

角田さんのイラストには若干毒があるんです。
でもそこに愛らしさもあるので、嫌な感じがしないのが魅力です。

──リアルな紙人形の動きが印象的でした。
最初に手を合わせるシーンや、スマホを操作するシーンはどのように撮影されたんですか?

4人が手を合わせるシーン

山口:すごくシンプルです。
手を合わせるシーンは、4人のスタッフそれぞれが片腕の人形を持って、「えいえいおー」と動かしています。

スマホを操作する動きも、スタッフの手を、手の紙人形で隠してスマホを触っただけです。
単純ではあるんですが、人が操っているので、どこかに息遣いを感じるような動きになるのがいいところだと思っています。

スマホを操作するシーン

──人間の役者と紙人形が握手をしたり手をつないだりしますが、こちらはどのように撮影されたのですか?

山口:今まで紙人形の映像作品はたくさん作ってきましたが、人間と紙人形が同じ画の中で絡む場面は今までやったことがない初めての試みでした。
ネタバラシすると、カメラのすぐ近くで紙人形を、カメラから遠いところに人間を配置する形で撮影しました。
いわゆる遠近法というやつです。

合成を使わない画の質感が好きなので、紙人形と人間の役者さん、そしてシーンとなる背景を、遠近法などを使ってその場で撮影しています。この手法にはスタッフ・キャスト全員のこだわりが詰まっています。

遠近法を使って撮影

例えば、都丸紗也華さん演じる女性と尾崎さんの紙人形が手をつなぎながらラブホテルに向かうシーン。
カメラの近くで紙人形を操作しながら、カメラから遠く離れたところで、都丸さんはひとり、誰もいない方向を見ながら、さも隣に尾崎さんがいるようにお芝居をしていただいています。

最初は都丸さんも戸惑われましたが、どんどん上手くなっていって最終的に違和感のない映像を撮影できました。
変わった撮影にも関わらず、都丸さん本当にありがとうございます!と思いました。

また、スタッフのみなさんにもご苦労をおかけしました。
紙人形を操ること自体もちろん全員初めてなので、最初は大変だったと思います。
ですが、その大変さを楽しんでくださる方ばかりで、苦労して微調整したうえで、本番、ばちっと決まるとみなさん笑顔になってくださるのがすごくうれしかったです。

超絶にカッコイイ ライブシーン!!

──MVの後半のライブシーンはそれまでのテイストから一変し、とてもかっこよくて印象的です。
ライブシーンの撮影に当たってはどのような指示をされたのですか?

山口:ここはコンテに「超絶にカッコイイ ライブシーン!!」とだけ書きました(笑)。

「超絶にカッコイイ ライブシーン!!」と書かれたコンテ

撮影の村松さん、照明の酒井さんはじめ、スタッフはみなさん有名なMVを何本も撮ってこられたプロフェッショナル。
だからこそ、このシーンはスタッフの皆さんにお任せしたい!と思いました。

唯一の演奏シーンですし、皆さん気合が入っていました。
紙人形撮影のフラストレーションで酸欠寸前だったスタッフの皆さんが、一気に解き放たれたというか(笑)
そして本当に超絶カッコイイシーンを撮ってくださいました。
感服しました。

──MVの最後に尾崎さんがうつむいて終わるシーンが印象的でした。

山口: あの演技は尾崎さんのアドリブです。
何か言おうと思って言えないみたいな・・・。
最後の最後に名シーンを作ってくださって本当にすごいと思いました。
あの尾崎さんの表情は絶対に入れたいと思って、MVのラストに入れました。

──今回のMVを撮影する上でなにか苦労されたことはありましたか?

山口:本当に楽しかったので、僕自身はほとんど苦労していません(笑)
あ!でもひとつ。
冒頭のフェスのシーンを山中湖で撮影したんですが、その日、めちゃくちゃ風が強くて。

風が強いとどうなるかというと、紙人形がバタバタバタ!と揺れるんです。
映像をよく観たら、実は尾崎さんの人形がちょっと揺れています(汗)
風が紙人形の天敵だと思い知りました。

『帝一の國』を観ても楽しんでもらえるMV

──今回のMVを撮影する前からクリープハイプはご存知だったのですか?

山口:もちろん、拝聴していました。
もともと日本のロックが好きだったので、今回お話をいただいたときは、「まさか自分がロックバンドのMVを撮れるとは!」とめちゃくちゃ嬉しかったです。

──『イト』は映画『帝一の國』の主題歌になっていますが。

山口:MV撮影が終わってから映画を観に行ったんですが、あのラストシーンには「うわっ!」とびっくりしました。
なぜ紙人形がオッケーだったのかも、映画を観てはじめて謎が解けました。
映画『帝一の國』を観てからMVを観てもいいですし、MVを観てから映画『帝一の國』を観ても楽しんでいただけると思います。

本広克行監督の大ファンだった

──ここからは、山口さんの個人的な部分についても聞いていきたいと思います。
山口さんは18歳からヨーロッパ企画に参加されていますが、きっかけは何でしょうか?
ヨーロッパ企画に参加された経緯についてお聞かせください。

山口:2005年、高校を卒業して大学は決まっていたんですけど、入学まで時間がありました。
そのときに『サマータイムマシン・ブルース』という映画で「監督:本広克行/原作:ヨーロッパ企画」という情報が出たんですが、僕が本広克行監督の大ファンでして。
中学生の時に本広監督の『踊る大捜査線』にめちゃくちゃハマったんです。

ヨーロッパ企画のことはなにも知らなかったんですが、調べると関西の劇団だということがわかりました。
「ヨーロッパ企画に入ったら本広さんに会えるんじゃないか?」と思って入ったところ、半年も経たないうちにお会いできてしまいました(笑)

──何をしたいと言ってヨーロッパ企画に入られたのですか?

山口:最初から映像がやりたかったですね。
話戻りますが、ヨーロッパ企画について調べていたとき、HPを見たら新作公演の情報が載っていました。
その公演を観に行ってみたところ、最初の30分が映画、その後、スクリーンが上がって、舞台でお芝居が始まるというかなり変わった構成の劇でした。

タイトルが『平凡なウェ~イ』というのですが、それを観て、映像をこんなにも積極的に作る劇団なら、僕も一緒にやってみたいなと思い、ヨーロッパ企画に入ろうと思いました。
映像と劇を組み合わせる構成でいつもお芝居をやっている劇団なのかな?と思ったのですが、後にも先にもその公演1回だけでしたので、偶然でしたね。

──ヨーロッパ企画に入る前から映像作品などをつくられていたのですか?

山口:何もしていませんでした。
とくに映像制作の勉強もしたことがなかったので、ヨーロッパ企画に入った当初は、撮影も編集も何もわかりませんでした。

ヨーロッパ企画のメンバーは全員、撮影や編集が自分で出来たんです。
びっくりしました。
ショートムービーを作って上映するイベントをヨーロッパ企画が行っていたので、みんなひとりひとり映像制作をすることができたんです。
僕はヨーロッパ企画代表の上田誠や役者のみんなから、撮影や編集を教えてもらいました。

監督の思いを生かすように心がける

──映像のお仕事を12年間も続けられています。仕事で苦労されることはありますか?

山口:映像の仕事ってどうしても時間がかかってしまいます。
撮影も時間がかかるし、編集はもっとかかります。
あと地味っていう(笑)。
地味にコツコツやるのが好きな人が向いているかもしれないですね。

また、撮影の現場は体力勝負です。頭を使うし、体も動かすし、緊張感もあってヘトヘトになりますね。
でも、地道に作ってきて、その中から『タクシードライバー祗園太郎』に注目してもらうことができて、今回の『イト』のMVにつながったので、続けていてよかったなと思います。

──映像作品を撮る上でのポイントはありますか?

山口:自分が監督するときは、せっかくだからと好きなようにやろうと思います。
一方、ヨーロッパ企画で映像作品を作る時は、役者が監督をして、僕がサポートにまわることも多いんですね。
その場合は監督がやりやすいように、スタッフや機材選び、スケジュールなどを工夫しようと心がけています。

監督の思いを生かすように、そして現場でやりやすいようにしようと心がけます。
そういう意味では、映像作品って、やっぱり監督のものだと思っています。

今回の『イト』のMVは僕が監督ですが、僕のなかでの監督は、実は尾崎世界観さんなんです。
とにかく尾崎さんが納得いくものを作ろうと思いながら作りました。

会議で出た尾崎さんのアイデアをとにかく全部活かしたくて、撮影前にコンテを作成しました。
完成したコンテを見て、尾崎さんは「こんなにも自分の思いが反映されるとは思わなかった。」と喜んでくださって、すごくうれしかったです。

ずっと映像作品を作り続けたい

──今回の『イト』が山口さんのMV初監督作品となりましたが、今後もMVを撮影したいと思われますか?

山口:ぜひ作ってみたいですね。お声がかかれば嬉しいです。

──山口さんの今後の展望についてお聞かせください。

山口:ずっと映像を作り続けたいですね。
映画やドラマ、もちろんMVも続けていきたいです。
この前、ドキュメンタリーを撮ったのですが、これも面白かったですね。
本当に何でもやりたいです。
僕の今までの作品は全体的にコメディが多いんですが、やっぱりコメディが好きだし、難しい。
だからこそコメディの映像作品をこれからも作っていきたいと思っています。

──本日は取材をさせていただき、ありがとうございました。

山口:ありがとうございました。

山口淳太さん(ヨーロッパ企画)が携わる映像作品

MV クリープハイプ『イト』(映画『帝一の國』主題歌)
監督:山口淳太
ペープサート制作:角田貴志
出演:クリープハイプ・清水ミチコ・ほいけんた・都丸紗也華・諏訪雅・中川晴樹

ドキュメンタリー『MAGIC TOWN』
監督:池田千尋
演出・編集:山口淳太

Eテレ『趣味の園芸グリーンスタイル 京も一日陽だまり屋』
放送日:毎週日曜日8:25~8:30(NHK Eテレ)
再放送:毎週火曜日23:50~23:55/毎週木曜日12:25~12:30/毎週金曜日21:25~21:30(NHK Eテレ)
脚本:石田剛太・諏訪雅・永野宗典・西垣匡基
演出:諏訪雅・永野宗典
撮影・編集:山口淳太・柴田有麿
キャラクターデザイン:角田貴志
声の出演:土佐和成・西村直子・石田剛太・酒井善史・本多力ほかヨーロッパ企画メンバー

【Web動画 ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ「ショートフィルムコンテスト」最優秀賞受賞作 『その手があったか』】
監督・編集:山口淳太
脚本:石田剛太 出演:石田剛太・永野宗典・西村直子・本多力・黒木正浩

編集後記

もとから大好きだったクリープハイプ。
新曲『イト』のMVをYouTubeで見たことがきっかけで今回取材をさせていただきました。

ヨーロッパ企画さんは京都を拠点に活動する劇団として注目を集めています。
ヨーロッパ企画さんは演劇や自主映画、TV番組やWeb動画の制作など幅広く活動をされている人気劇団です。
本当に取材をさせてもらえるのだろうかと不安に思いながら取材依頼を出しましたが、快く取材をお受けいただきました。
取材させていただくことが決まったときは、思わずガッツポーズしたのを覚えています。

この度取材させていただいた山口さんは、とても優しいかたでした。
取材が始まる前にはヨーロッパ企画さんの事務所内を親切に案内していただき、私は感激しました。
また、取材ではMV撮影時のお話を詳しく伺うことができ、とても貴重な時間を過ごしました。

合成を使わず、紙人形と人間を同じ画で映す手法に山口さんのこだわりを感じられました。
『イト』MVはストーリーも画も最高で、本当に面白かったです。
最高のMVをどうもありがとうございました!

山口さんは現在、たくさんの映像作品に携わられています。
取材終わりに山口さんが「映像編集は楽しいから続けられる」と仰っていた点が印象的でした。
山口さんはこれからも映像作品をどんどんつくっていかれると思います。
今後の山口さんの作品も大変楽しみにしております。

この度はお忙しいなか取材をお受けいただき、本当にありがとうございました!

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kawashima

この記事を書いたひと マル

京都の大学に通う学生ライター。 丸顔なので「マル」というペンネームに。 学生ライター仲間を募集しています!
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