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ジビエハンター林利栄子

ジビエが流行で終わらないために。『ジビエハンターガイドブック』に込めた林利栄子さんの想い。

狩猟(しゅりょう)と聞くとどんなイメージを持ちますか?

農村に住むおじさんが銃を片手に、猟犬を従えて、 野山に分け入りイノシシやシカを狙い撃つ。
多くのひとがこんなイメージではないでしょうか。
ぼくも最近までこのイメージしか持っていませんでした。

ここ数年「狩猟女子」「狩りガール」という言葉をよく耳にします。
男の世界という印象が強い狩猟の世界に飛び込む狩猟女子が制作に携わった「ジビエハンターガイドブック」という本が今年の1月に発売されました。

ジビエハンターガイドブック表紙

表紙がかわいい!!
今までの「狩猟」のイメージとは全然違う。

なんか楽しそうだぞ!と、本を開いてみると、かなりリアルなシカの解体写真が・・・。
苦手なひとにとっては絶対に目にしたくない光景かもしれませんね。

ただ、この「ジビエハンターガイドブック」は解体のハウツー本ではありません。
ここには「生き物を獲って食べる」ことの全てが詰まっているように思います。

猟の方法、美味しい食べ方、そこに関わる人たちの想い。

いったいこの本にはどんな想いで作られたのか、著者の一人である林利栄子さんに秘密基地のような小屋のような空間でお話をうかがいました。

獲るひとにも、食べるひとにも読んでほしい

――よろしくお願いします!
さっそくですが、「ジビエ」という言葉をよく知らずに使っているので調べてみて驚いたんですけど、シカ肉のことではないんですね!

:シカだけじゃなくて、イノシシ、鳥とか野生動物のお肉のことをフランス語でジビエっていいます。

野生のウサギを獲っている地域もあるので、それもジビエです。

――この本で「シカ」を対象にしたのはどうしてですか?

:イノシシはそんなに簡単に獲れないというのと、田舎の特産物としてボタン鍋があるように「しし肉は美味しい」というイメージがすでにある。

シカもイノシシも増えすぎていて問題になってるんですが、シカ肉はマイナスイメージが強い。
臭い、硬い、美味しくない」ってよく言われます。

これを覆すには時間がかかるけど、シカ肉をしっかりと食肉処理をすれば美味しく食べられると言うことを知ってもらいたいなあという思いから、まずはシカ編が作られました。

――この本では「食べるところまでを考える」猟師のことをジビエハンターと呼んでいますね。
狩猟が目的の猟師とは違い、食べることまでを考えると「わな」でとったほうがいいんですか?

:獲り方は猟師さんによって異なります。
わなで獲らないといけない、銃で獲らないといけないといったルールは特になくて、地域によって鉄砲の方が多かったり、わなの方が多かったりいろいろなんです。

ジビエハンターガイドブックは、食肉処理工場も運営されている猟師の垣内忠正さん (共同著者であり、林さんの師匠。以下垣内さん) が、これから猟師を目指す人たちに、より安全でより衛生的な捕獲方法と解体方法を伝えてきたいという思いから制作されたものです。

ガイドブックには、そんな垣内さんが長年培われてきた技術と経験、そしてなにより捕獲から食べるまでの知識がたくさん紹介されていて、撮影のたびに勉強になることばかりでした!

止めさし(とどめをさすこと)の方法も、棒で撲殺したり、槍を使ったり猟師さんによって全然違いますが、本の中では電気ショックを実践しています。
これは獲物を仮死状態にさせて安全に放血するためと、獲物に必要以上の負担をかけないためです。苦しませてはかわいそうですからね。

捕獲についての意見は様々ですが、この本ではわなの特徴を最大限に活かし、安全かつ衛生的に捕獲・処理し、おいしくいただく方法が紹介されています。

――わな、銃というのは猟師のレベルによって使える道具が違うのかと思っていました。
想像してたのは、わなで10匹捕まえたら鉄砲を持てるようになるとか。

:ううん、そういうのは関係ない。
猟には免許が必要で、わな、網、銃の3つあって、どの免許もわりと簡単に取れます。

ただ、鉄砲は警察に所持許可をもらう必要があるので、その申請にかなり時間がかかります。だいたい半年以上くらいかな?

警察に申請するために手数料を払ったり、鉄砲をかったり、鉄砲や弾を保管するロッカーを用意する必要もあって、わなや網よりも時間もお金もかかるのでハードルが高いんです。

ただ、わなは仕掛けたら毎朝見回る必要があるので、近くに山がないような街中に住んでいる人には、それが難しかったりも。

――解体の写真がとにかくリアル。
表紙のかわいさとはうってかわって、リアルすぎて衝撃的でした。

:そうそうそう。
写真はとても悩みました。どこまで血を見せていいんだろうって。

過去にウェブとかで取り上げてもらったときも賛否両論あって、「こんなひどいことをして」、「かわいそう」と言った声もありました。

解体の写真は白黒が多いんです。
それは衝撃的なものを抑えるためであって、載せてはいけないというわけではないみたいなんです。

否定的な意見もありますが、こういうことを全部みせないと何がどうなっているかわからないのでありのままを伝えたいと思って。

実際、猟をするなら血や内臓の状態で個体の良し悪しが判断できるようにならないといけないし、どれくらい血がでるのかも知ってほしい。

――限定動画もなかなか見ごたえがあるというか何というか・・・。
そもそも猟師さんは狩りや解体を教材から学ぶものなんですか?

:先輩猟師さんについて教わることが多いです。ただ、猟師さんによって方法が様々なのと、わなの仕掛け方・銃の撃ち方の本はたくさん出ているけど、その後の解体について書かれた本はほとんどないんです。

この本は農林水産省が出したガイドラインに従って、衛生的に解体する方法を載せています。
垣内さんは食肉処理場を運営されているので衛生管理にとても詳しいんです。

食肉処理場を持たない猟師さんの方が圧倒的に多いし、そういった猟師さん達は衛生的ではない場所で捌かなければならない状況が十分にあります。このガイドブックはそういったかたのための本でもあります。

お店やネットで販売するような、お金をもらっていいお肉は食肉処理場できちんと衛生的に解体されたものではないとダメっていうのがあります。

――食肉処理場は市町村でもってないんですか?

:行政でもっているところもありますが、今は個人、会社でもっているところも増えています。

食肉処理場にも基準のガイドラインはありますが、設備の充実さは処理場によって全然違います。
本の中では垣内さんの食肉処理場について詳しく載せているのでぜひ読んでみてください。

――イラストが可愛いですよね。
猟師を目指す人以外にも読みやすそうです。

:そういう人にも読んでもらえると嬉しい。

シカ肉をもらったときに、「猟師さんからもらったし新鮮だ!」「山でさばいているのはすごい!」と考えるひとって多いと思うんですよ。
野生のものだから新鮮で安心だし、美味しいという思い込みがあります。

もしかしたら、そのシカ肉は土の上で解体しているかもしれないし、解体の途中で内蔵を誤って切ってしまって、お肉に菌がついているかもしれません。
食べる人たちにも手元に届くまでのプロセスをしっかり知ってもらいたかったんです。

この本も衛生面はとても厳重にやってて、防護もこれだけやりましょうと服装の指定もしています。

「誰がこんなことやるの?こんな服着てやるひとおらんで」と言われることもあるけど、衛生面で不十分だと指摘を受けることはない。

――ジビエが広まっている今だからこそ、シカ肉が引き金になる悪いニュースは起きてほしくないですもんね。

猟師になるきっかけ

――林さんが猟師になろうと思ったのはどんなきっかけですか?

:猟師になりたいひとから、垣内さんに会いに行くけど一緒にいく?と誘われて、ついていったんです。
そのひとが垣内さんにいろいろ質問をしていて、それを横で聞いているだけでした。

垣内さんはそれまで持っていた猟師のイメージと違っていて、服装かっこいいし、シティボーイみたいで笑。

――若い男性も猟師になるひとは多いんですか? 狩猟男子とはあまり聞かないですが。

:狩猟しようという男性は、趣味よりもビジネスにしようというひとが多いかな。

女性と男性では狩猟を始める動機の傾向がちがう。
女性は食や環境への関心から、自身の経験のために始めるひとが多くて、男性は畑と狩猟で自活したいというひとが多いかなぁと。

垣内さんに初めてあったときに「(当時は)女性少なしい、やりいや」って言われて、身近に女性の猟師さんの知り合いもいなかったし、私も経験としてやってみようかと。
それが4年前ですかね。

NPOで働き始めたころで、田舎と都会の中間的な存在になりたかったんです。

田舎の問題を又聞きしていて、それを都会のひとに伝えるのは薄っぺらい。
自分で肌身で感じて問題だと感じたことを、自分の言葉で伝えないとダメだなと。

田舎に移住するとそっちよりになってしまいそうだったので、週末に通える猟師はそれを経験するにはいいと思ったのと、ちょうどその年に垣内さんが猟師教室を始めるタイミングだったので猟師になってみようと。

初めて猟師さんが解体するところを見たときはけっこう衝撃をうけて・・・うわー!って。

命を奪うということに対して葛藤もありました。
メスシカを撃ったときに子どもまで亡くなってしまって、無駄な殺生をしてしまったのではないかと思うことも。
当たり前に買える、食べられるお肉にも見たくないところがいっぱいあって、でも誰かがそれを担わないといけない。

そうじゃないとまわらない。

免許の取得に1年ちかくかかったし、誰でもやれるものではないなら、自分が時間と労力をかけてやったことはしっかりと伝えないといけないと思っています。

――本の「おわりに」で林さんがシカ肉を販売しているときに「シカを食べるなんてかわいそう」と言われたエピソードが印象的でした。

:所属しているNPO法人いのちの里京都村ではシカ肉の利活用について考えていました。

シカ肉を美味しく食べてもらうために、シカの肉まんができて、それのプロモーションが仕事でした。
シカ肉を食べることはいいことだと思って、それをマルシェなどのイベントで販売していました。

そんなときに子どもからの「かわいそう」という言葉をきいて、そう思うのは食べることは命をいただくということをしっかり学んでこなかったからかなぁ、自分もそういうのを学ぶ機会ってほとんどなかったなあって。

学校の授業であつかう命については、道徳の人権問題とか、理科の食物連鎖で、どれもちょっと違う。

地域のお祭も穀物への感謝(五穀豊穣など)のお祭はあるけど、表だってお肉に感謝することはホントに少ない。

お肉がどうやって食卓に並んでいるのか知ったうえで、好き嫌いがあるのはそれぞれの価値観だから否定しません。

ベジタリアンはベジタリアンでいいし、食の多様性はもっと広がって認められるようになってほしいなぁと。

rokuro

――ジビエハンターとしてだけでなく、今後は食べ物の学び(食育)にも関わっていくんでしょうか?

:シカ肉を食べるイベントはずっとしています。

やっぱり「食べる」ことは誰にも共通することなので、何かのイベントでシカ肉を食べられるようにするなど、そういった場づくりをしていきたいです。

ずっとやっているイベントで「べにそん会」というのがあります。
普段の食卓に並ぶお肉料理をシカ肉で作っただけのシンプルな料理しか作らないんですけど、誰でも簡単にマネできるようなレシピを紹介して、もっとシカ肉を身近に感じてほしいなと思って開催しています。

また、今年から綾部で月1回で子どもたちとワークショップをします。

一緒に野山を歩いたり、狩猟道具の使い方を紹介したり。

普段知ることのできない里山のことや獣害のことを、興味をもって学んでもらえたらいいなと思っています。

――鳥獣被害対策や食育など、そういったことには学生のころから興味があったのでしょうか。
ハタチのころはどんなことを?

:ハタチかあ・・・初めて彼氏ができた歳!笑

――予想外の回答!笑

:サークルの先輩で・・・(割愛させていただきます)

:すごくフツーの学生。
インターンとかしてないし、学生団体にもはいってなかったし、バイトやサークルばっかりだったので、今みたいな仕事をしているなんて全然考えていなかった。

地元のフランス料理屋さんでバイトをしていて、土日出勤が当たり前だったので、みんなが休みのときに働いてました。

それがすごく嫌だったので、社会人になったらどんな仕事でもいいから土日は休みたいと思ってて、金融とかおカタイ仕事に就きたかった。

――フランス料理屋さんで働いていて、そこのジビエ料理に影響をうけて・・・というきれいな話では・・・

:ないないない笑

そのフランス料理屋さんではジビエメニューはなかった。

就職したらお金もらえて土日さえ休めればよかったのに、今はイベント出店が多くて当たり前のように休日働いてるけど・・・。

ただ、前職のときと比べるとお給料は減ったけど、お金の使いかた、時間のすごしかたが変わってラクになった。

お金と時間を消耗している感じもなくなって、いいお金の使い方をしてるなあと。

休みもないけど、経験もつめて学びが多いなと思えるし、これからどんなことがあっても動じずにいられるタフさが身に付きましたね。

林さんのこれから

――これから5年後、10年後にどんなことが当たり前になったらいいなぁと思いますか?

:今はジビエが注目されて、イベントとして扱われることが多い。

ジビエは特別なものとして扱われるのではなく、当たり前に手に入るものになったらいいなぁ。

あと、シカが獣害として取り上げられることが多いので、害ではなく山の恵みとして、共生できるようになったらいい。

そのために、わたしは猟を通して、子どもたちと山に一緒にはいって、肌で感じる食育をしたい

危ないからやっちゃだめ、刺激が強いから見ちゃダメ、というのではなくて、食への関心に結びつくような食育。

――子どもたちがうらやましい。
林さんのワークショップを受けたい。
本日はありがとうございました!

:ありがとうございました!

【編集後記】

スーパーで簡単に買える牛、豚、鶏のお肉も、野生のシカを仕留めて手に入るお肉も、同じように命をいただいているんだということを考えるとちょっと胸が苦しくなりました。

生きているものが食卓に並ぶまでの工程から目を背けていたというか、言い訳をするなら知る機会も与えられなかったし、知りたいとも思わなかったです。

林さんが言ったように、その工程は見たくないものなのかもしれません。

最初にも書きましたが、「ジビエハンターガイドブック」は狩猟のノウハウを伝えるためだけのものではなく、普段は見えない命をいただく現場を知ることができ、気づきがとても多い本でした。

血が苦手なひとにはおすすめできませんが、ちょっとでも興味あるひとにはかなりおすすめの一冊です。

みなさんの街の本屋さんに置いてあるかもしれませんが、
見当たらない場合はAmazonからもご購入いただけます。

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Wa!編集部

この記事を書いたひと Wa!編集部

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